成人の神経膠腫、特に星細胞腫に対する手術の意義は10数年以上も前から議論になっていました。この頃一番関心を集めていた議論点は”wait and see” policy、いわゆる形勢をうかがって手術の時期をみるかどうか、ということでした。2007年の総会で私自身、この議論でシンポジウムによんでいただき、この頃はありのスタンスで臨んでいたのを覚えています。
手術に対する考え方
- 若年成人であれ、高齢であれ、いずれにおいても摘出度が上がるたびに生存期間が延長することが示されています。
- また、生検(ちょこっと組織をとる)よりも摘出に向かった方がよいこともわかっています。
- しかしながら、浸潤性という特徴のため全摘出ということは必ずしも可能ではありません。
- 手術のやり方は色々なやり方がありますのでここでは割愛しますが、目的はいかに境界を把握できるか、につきます。それが画像上で見えている境界かどうか、ということです。
- ただし、腫瘍内に正常の機能をもった組織が残っている可能性があるのか、正常の組織の中に腫瘍が染み込んでいるのかの判断は手術後にどの程度の機能障害が予想されるのかを判断する上でとても重要な考えになります。
覚醒下手術
- この手術法は私自身も行っていました。脳の大事な機能部位に腫瘍がある場合、術中に患者さんに覚醒してもらい、機能を確かめながら可能な限りの摘出を試みる手法で、機能温存と可及的な摘出率向上を目指して行う手法となっています。
- ただ、患者さんの負担が大きいため手術前にしっかりお話しをすることはもちろんですが、機能評価のための神経機能解剖の知識とその時の摘出判断がとても大切なものになります。
- 術後に新しい言語障害や運動機能の低下が出た場合、そうでない患者さんと比べて生存期間に有意差がでることが分かっているからです。
- ただ、言語領域の腫瘍の場合、1週間で15%程度の患者さんに機能が落ちる方がいますが、半年たてば多くの方は元に戻られるので少し経過を見ることも大切です。
- 子どもの覚醒下手術に関しては、麻酔、テクニカル、発達・精神心理、倫理面からも現段階では実験的と言わざるをえないと思っています。私がいたトロントの小児病院から2014年に10例の報告が出ていましたが、この病院は毎日ひっきりなしに小児脳腫瘍の子がくる病院で、当時でも年間手術800例こなしていた病院でしたので、比べること自体がナンセンスですね。。。
この患者さんは42歳の男性で偶然腫瘍を指摘された患者さんです。左の運動野というところに腫瘍があるのがわかります(左図)。この患者さんは覚醒下手術にて腫瘍を摘出しました(右図)。
- Marko NF, et al. JCO 2014
- Jakola AS et al. JAMA 2012
- McGirt MJ et al. Neurosurgery 2009
- McGirt MJ et al. Neurosurgery 2008
- Sanai et al. Neurosurgery 2008