私が医師になったころ、脳にある細胞”星細胞”から発生すれば”星細胞腫”、”乏突起細胞”から発生すれば”乏突起膠腫”と教わり、病理にいたころ形態学的でそれらを必死に勉強してきました。その概念が今、大きく変わろうとしています。

神経膠腫(グリオーマ)という腫瘍

  • もともと脳にある細胞から発生している腫瘍です。
  • 腫瘍として集落を作りながら、周囲に浸み込む(浸潤)ように発育していきます。
  • 発生の原因は明らかではありませんが、リスクとして言われていることはいくつかあります。
  • 一口にグリオーマといっても、数多くの種類がありますので、まず、適切な診断が第一となります。

主な症状

  • できた場所によってさまざまな症状を呈しますが、主に下のような症状が認められます。
  • 頭痛吐き気
  • 食欲低下最近元気がないよく寝るようになった
  • てんかん発作(この頻度はのちに述べる膠芽腫よりもずっと高いものです)
  • 感情や性格の変化
  • 手足に力が入らないしゃべりにくい     など

画像

  • MRIで比較的容易に診断はつきます。

てんかん発作で発症した患者さんです。MRIでは右の大脳に広範囲に浸潤している像が確認され、非常に境界がわかりにくくなっています。

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WHO2016脳腫瘍分類によって神経膠腫の診断がリニューアルされました。

IDHという遺伝子と第1染色体単腕と第19染色体長腕の欠失を確認する必要があります。

  • 典型的なDiffuse astrocytoma(びまん性星細胞腫)はIDH変異を伴います。
  • Oligodendroglioma(乏突起膠腫)の診断には病理診断にかかわらず第1染色体単腕と第19染色体長腕の欠失が必須となります。
  • 以前から汎用されていたOligoastrocytoma(乏突起星細胞腫)という診断は分子診断によって上記のふたつのいずれかに分類されることになり、診断名が事実上なるなることになります。

病理診断と分子診断が組み合わされることによる恩恵と弊害

  • 乏突起膠腫はもともと抗がん剤や放射線などの治療感受性がよいことが知られていましたので、病理診断に分子診断が加わることによって主観→客観的判断も加わることとなり診断の質の向上と治療の選別がこれから進むものと思っています。
  • 例をあげると、画像上明らかに乏突起膠腫を疑う患者さんですが高齢ということもありもう10年近く経過を見ている患者さんもいます。つまり、より治療を軽くできる患者さんがいるのではないか、ということです。
  • 一方で、病理診断にて乏突起膠腫と診断されたにもかかわらず、第1染色体単腕と第19染色体長腕の欠失のない患者さんが15%ほどで報告されていますし、星細胞腫と診断された患者さんの中にもIDHの変異を伴わない野生型が40%近くあるのではないかと報告もされています。こういった患者さんをどう診断・治療するのか混沌としているところもまだまだ存在しています。

 

  1. Buckner JC et al. N Engl J Med. 2016
  2. Eckel-Passow JE et al. N Engl J Med. 2015
  3. Cancer Genome Atlas Research Network, Brat DJ et al. N Engl J Med. 2015
  4. Cairncross JG et al. J Clin Oncol 2014
  5. van den Bent MJ et al. EORTC brain tumor group study 26951. J Clin Oncol 2013
  6. Jenkins RB et al.  Cancer Res 2006