• 日本でてんかんの患者さん約100万人いると言われています。
  • —全てんかん患者さんの約4%脳腫瘍にかかわるものと言われています。
  • てんかんをもつ脳腫瘍の患者さんの30%にもおよびます。
  • 脳腫瘍の患者さんでは、腫瘍と発作の両方を制御する必要があります。てんかんのお薬には腫瘍の制御に用いられる抗がん剤の効果を弱めたり、逆に強めたりするものも知られているため、この両立はとても難しいものとなります。
  • また、てんかん薬は妊娠している場合、生まれてくる子に障害が出たり、子どもの発育に影響を及ぼす可能性があります。そのため、お薬の調整が必要となります。
  • てんかん発作を抑える抗てんかん薬には、お互いに影響を及ぼす相互作用というものが知られています。

脳腫瘍とてんかんの頻度

  • 一般的に悪性度の高いものより低いものの方がてんかん発作を起こしやすいことが知られています。
  • 特に子供に多い低悪性度の胚芽異形成性神経上皮腫瘍(DNT)神経節膠腫などでは80−100%と高い頻度でてんかん発作が発症します。
  • 一方で、転移性脳腫瘍ではてんかん発作の頻度は20−35%と上のものと比較すると少し低くなっています。
  • 悪性度が低い腫瘍の方がてんかん原性が高く、薬剤が効きにくい傾向にあるためです。

全般発作

  • 脳の両側の広範囲にまたがり神経が興奮して起きるものです。
  • 脳の神経細胞が異常な電気的な異常興奮をおこすことで不随意に激しく発作的な全身筋肉に収縮をきたします。異常な興奮が脳の一部にとどまっているときには意識がなくなることはありませんが、電気的興奮が広く左右の脳に伝播すると意識障害をおこしてしまいます。

強直性発作:全身や四肢の筋肉がこわばったり、つっぱったりするような発作です。

間代性発作:全身や四肢の筋肉がガクガクするような発作です。

欠神発作:無表情となって急に行動や止まったり、体が倒れたりするような発作です。

ミオクロニー発作:筋肉の一部が急にピクッと不随意に動くような発作です

部分発作

  • 脳の一部分で神経が興奮して起きるものです。
  • 意識が保たれているため、発作の始まりから終わりまでをすべて覚えている単純部分発作と意識がなくなってしまう複雑部分発作とがあります。

単純発作:体の一部がピクピクしたり、見えるはずのないものが見えたりすることもあります。また、吐き気がしたり、異臭が一瞬するといったいっけん、てんかん発作とはおもえないような発作を呈することもあります。

複雑発作:部分発作の中でも意識がなくなってしまっている発作のことをいいます。急に一点を見つめるてボーっとしてみたり(意識減損)、自動症といいますが、口をモグモグさせたり、手をたたいてみたり、自分では気づかない行動をとっていることが多くあります。

脳腫瘍の治療における抗てんかん薬

  • てんかんを抑えるお薬の中には酵素を誘導することが知られているものがあります。
  • 酵素を誘導したり抑制したりする抗てんかん薬がある、ということは一緒に使うことで抗がん剤の効果が弱くなったり、強くなったりなってしまう抗てんかん薬がある、ということです。

酵素誘導するもの:抗がん剤による抗腫瘍効果が弱まる可能性があります。抗てんかん薬としてはカルバマゼピン(テグレトール)やフェニトイン(アレビアチンやヒダントール)、フェノバルビタール(フェノバール)、などが挙げられます。

酵素抑制するもの:抗がん剤による抗腫瘍効果が逆に強まる可能性があります。抗てんかん薬としてはバルプロ酸(デパケンやセレニカ)が挙げられます。

酵素を誘導も抑制もしないもの:抗てんかん薬の中には酵素誘導に関係しないものも知られています。薬剤としてはレベチラセタム(イーケプラ)やラモトリギン(ラミクタール)、ゾニサミド(エクセグラン)などが挙げられます。

抗てんかん薬が脳腫瘍を抑える!?

  • 一部のてんかんを抑えるお薬の中には脳腫瘍の増殖を抑制させるのではないかと期待されているものがあります。

バルプロ酸(デパケンやセレニカ):2005年にOberndorfer先生がCCNUという抗がん剤を使用した場合、バルプロ酸を併用した膠芽腫患者さんの生存がよかったと報告しました。また、2011年にはWeller先生も同様に良い結果を報告しました。ですが、残念ながらその後2016年に4つの大きな臨床試験からこれらの結果は否定されています。

ペランパネル(フィコンパ):欧米ではタランパネルという似た構造のお薬が出ていますが、AMPA受容体に拮抗して腫瘍の増殖を抑えようとするものです。2009年に少し良い結果が出ていますので、今後良い結果がでることを期待してます

脳腫瘍の手術前に抗てんかん薬は必要!?

  • 手術後1週間で発作がでる危険率は手術前に発作の有無にはかかわらず10-15%と言われていますので、長期での予防的な投与を正当化する理由は現時点でありません
  • 2004年に報告されたメタ解析(信頼性の高い科学的な根拠のあるデータ)では神経膠腫、髄膜種でも予防効果はないと判断されています。ただし、お薬の作用機序や腫瘍によって発作がでる機序も違っていますので、この辺りは慎重に考える必要があります。