- 大脳辺縁系(大脳の奥深くに存在し、大脳基底核の外側を取り巻くように存在する人間の脳で情動の表出、意欲、そして記憶や自律神経活動に関与している複数の構造物)を多発性におかす病変には下記のようなものが考えられます。
- 転移性腫瘍として全身にあるがんが転移してできる病変です。
- 非転移性病変(代謝性、医原性、感染、血管性、傍腫瘍性、脱髄性)として全身の病気などが原因でおかされるもの
- 頭蓋内原発腫瘍多発(脳悪性リンパ腫や神経膠腫など)によっても多発性におかされます。
診断
- 腫瘍かどうかの判断にはMRIやPET、腫瘍マーカー、さらには生検術(組織をちょっとだけ採取する手術)が必要となります。
- 一方で、脱髄疾患(多発性硬化症など)を疑う場合には、髄液採取(腰椎のことろから細い針を穿刺して、髄液を少し採取する)や感染や外傷の既往があるか、他のがんが全身にないかなどを調べる必要があります。
傍腫瘍性や脱髄性疾患と見まがう退形成性神経膠腫
71歳の女性で大腸がんの既往のある患者さんで、ふらつきを主訴に受診された患者さんのMRI画像です。一番左のFLAIR画像を見ると脳室(脳の水をためておく場所)周囲に少し白くなっているところが広範囲に広がっており、一部小脳にもその広がりが見てとれます。一見すると何か腫瘍の播種(脳の中に散ってしまった状態)を疑いますが、左から2番目の造影MRI画像では右の海馬の一部、小脳の一部に造影されるのみとなっています。また、一番右のPET画像では小脳の造影されていた病変だけが明るくなり、悪性を疑わせる所見となっています。
- この患者さんでは脳波は正常所見で、腫瘍マーカーも陰性となっており、全身でがんがないかCTで確認を行いましたが腫瘍らしいものは確認できませんでした。
治療方針を決定するうえで、この患者さんに対して矢印のところから少しだけ組織を採取する生検術を行ったところ・・
病理所見では細胞・核の大きさが大小不動でいびつな形をしており、細胞核の異型性が認められています。右の画像は神経膠腫に特有のGFAPというマーカーで染色したものですが、腫瘍の多くに染色性が確認されます。退形成性星細胞腫の所見です。
退形成性星細胞腫
- 脳にもともとあある星細胞から発生する腫瘍のため星細胞系腫瘍と呼ばれます。
- 他の臓器に転移することはありません。
- 星細胞系腫瘍は神経膠腫(グリオーマ)を代表する腫瘍で全脳腫瘍の約20%を占めます。
- 悪性度の低いものから、びまん性星細胞腫→退形成性星細胞腫→膠芽腫と呼ばれています。
- 細胞の倍化速度は初発であれば24.5±20.7日です。
- 浸潤性発育を特徴とするため、手術での全摘出が簡単ではありません。
診断
- MRI検査で行います。
- 神経膠腫の項に記載していますので、下記をクリックしてください。
退形成性星細胞腫の治療
- IDH1/2に遺伝子変異があるものは治療効果が期待できます。
- MGMTという遺伝子のメチレーションがあれば、テモダール化学療法や放射線治療の効果が期待できます。
- 標準的な治療は可能な限り摘出ののちに、テモダールを併用した放射線治療です。
- 放射線治療は標準的に、総量で60Gy(グレイ:放射線の治療単位です)を30回分割する(1日1回2Gy)もしくは59.4Gyを33回で分割(1日1回1.8Gy)して照射します。
- 腫瘍の範囲が広範囲にわたり、照射での高次脳機能障害が懸念される場合には、30Gyを15回に分割して照射する方法をとることもあります。
- テモダールに関しては、下記をクリックしてください