- グリア系腫瘍に位置付けられている腫瘍です。
- 脳室や脊髄の中心管というところから発生する腫瘍です。
- 6歳前後の子どもにみられる腫瘍ですが、30代の成人でも発生する腫瘍です。
- 小児の脳腫瘍の中では10%前後と言われていますが、3歳未満に限ると30%近くを占める腫瘍です。
- ときに播種(脳脊髄液の中に散らばる)することがあります。
- ほとんど(60%)が後頭蓋に発生しますが、30%はテント上といって大脳半球内に発生し、残る10%が脊髄に発生します。
- 2016年にアップデートされた分類ではRELA癒合のある上衣腫が新たに追加されました。
- 治療は手術が主軸になっています。
症状
- できる部位によって症状が異なりますが、多くは腫瘍が大きくなることでの頭蓋内圧亢進症状(頭痛、吐き気) といって脳の圧があがることで出る症状です
- 失調性歩行といって、歩くときにふらつく症状やめまい、倦怠感といった腫瘍ができる場所による症状
- 播種があれば、背部痛や歩行障害、物が二重にみえる(複視)などの脳神経症状が認められます。
診断
- 画像検査:腫瘍のある場所や大きさを検査しますが、脳の圧が高くなっていないかや脳脊髄液の通り道がつまっていないか、など、その後の治療に影響がおよぶとても大事な検査になります。通常、MRI撮像にてガドリニウム造影を行うことで診断を行います。
- 脳脊髄液検査:スパイナルタップ(spinal tap)と呼ばれます。腰椎の間に細い穿刺針を刺して、ちょこっと脳脊髄液を採取する手法です。これで脳脊髄液中に腫瘍細胞がいないかどうかを判定します。画像であきらかに播種と判断できる場合には行いませんし、脳の圧が高いと判断される場合には逆に禁忌行為となるため、術中に採取することで代用されます。
上の写真は頭痛で来られた男の子のMRI面像です。MRI撮像法のガドリニウム造影という撮影法になりますが、右側の画像では脳室野中に不整に造影される偏円形充実性の腫瘍が確認されます。左の画像は手術後のガドリニウム造影MRI撮像法ですが、腫瘍が残存病変なく摘出されていることがわかります。
分類
WHOグレード1
- 粘液乳頭状上衣腫
- 上衣下腫
WHOグレード2
- papillary上衣腫
- clear cell上衣腫
- tanycytic上衣腫
- RELA融合陽性
WHOグレード3
- 退形成性上衣腫
治療
- 治療の一歩はまず手術での完全摘出です。
- 手術の目的は治癒を目指すものですので、許容できる限りの後遺症であれば最大限の摘出を目指して行います。
- 1回目で完全に取り切れなくても、放射線治療後にもう一度手術で完全摘出を目指す、セカンドルックサージェリーという考え方で、あくまで完全摘出を試みます。
放射線治療
- 画像で髄芽腫と間違われることもある腫瘍ですが、治療の考え方は全く異なります。
- 化学療法は2018年現在期待できるものがありませんので、残存腫瘍が明らかにある場合や完全摘出が行えたテント上グレード2上衣腫・テント下EPN-PFB以外は放射線治療の対象となります。
- 放射線は一般的に54Gy(グレイ)前後の局所照射を分割して照射します。
化学療法
- 2018年現在、有効とされる化学療法の報告は残念ながらありません。これが上衣腫がサージカルディジィーズ(外科疾患)と言われるゆえんです。
- 下記は私が2005年に学会に報告した論文の1項ですが、これまでのところ大きな変遷となる手がかりはないのが現状となっています。
2005年 小児脳神経外科報告
上衣腫に対する化学療法の有用性は未だ不明な点が多い。現在まで、chemotherapyの効果に言及したrandomized studyは1つのみである(Level I evidence) 。この報告によると、vincristineとlomustineの併用では転帰に統計学的な有意差は認められていない。
一方、単剤を用いたchemotherapyとして現時点ではcisplatinが最も有効性が示唆されている薬剤といえる(Level III evidence) [4]。これまでのphaseII studyの結果をまとめると、術後にcisplatin単独で治療された上衣腫のresponse rateは30%に達するとされる。これらの報告以降、platinum系薬剤によるtrialがなされてきた。しかし現時点までにその有効性を明らかにした報告はみられない(Recommendation grade C)。さらに髄芽腫で有効性が報告されている”8 in I” regimenや”MOPP”,” Carboplatin-VP16”などの多剤併用による治療も結果は満足出来るものではない(Recommendation grade C) 。
手術後の残存腫瘍の制御については、とくに5歳以下の症例で検討が行われている。その結果、POG(Pediatric Oncology Group)からのbaby-brain protocol (vincristine, cyclophosphamide, cisplatin, etoposide)でその有効性が示されている(response rate: 48%)(Level III evidence) 。またWhiteらはVETOPEC (vincristine, etoposide, cyclophosphamide, cisplatin, carboplatine) による奏功率を86%と報告している(Level II evidence) 。このように5歳以下の症例では残存腫瘍に対する化学療法は有効な治療であることを示すものである(Recommendation grade B)。また残存腫瘍に対する”second-look surgery”をより効率的に行うために化学療法を用いた検討もなされている(Level III and IV evidence) 。現在International Society of Pediatric Oncology (SIOP)やChildren’s Oncology Group (COD/North-America)においてsecond-look surgery前の化学療法の効果についてprospective trialが進行中である。Tableに示すようなinternational cooperative trialが開始されており、その結果が期待されている。