• 小児に発生する全脳腫瘍の中では5%程度とすくないものですが、小児に発生する神経膠腫(グリオーマ)だけをとってみると20-30%と比較的多い腫瘍です。
  • 10歳までの小さな子どもに多くみられる腫瘍ですが、特に神経線維腫症Ⅰ型(NF-1)の患児では20%前後でみられる腫瘍です。
  • また、小さな子どもさん、特に5歳以下で発症した場合には増殖能が高いことが知られています。
  • 視神経、視交叉、視床下部、視索、外側膝状体、視放線といわゆる視路(視覚の伝導路)にできるものですが、最初に外側膝状体にできるもので見つかることもあります。
  • 多くの場合、治療で手術は必要なく抗がん剤治療(化学療法) が主軸になっています。

症状

  • 物が見えにくいといった視力低下 で発症することが多い腫瘍ですが、発症年齢が小さいため随分と視力が落ちてから発見されることがあります。
  • 特に3歳以下の小さな子の場合、斜視眼瞼下垂(瞼がおちてくる)眼振(目が揺れる)などを指摘されて受診することもみられますので注意が必要です。
  • また、視床下部で発症する場合には、成長が早く、思春期早発などで見つかったり、また極度の痩せ(間脳症候群)でみつかることもあります。

診断

  • 画像検査:腫瘍のある場所や大きさ、進展具合を検査しますが、通常、MRI撮像にてガドリニウム造影を行うことで診断します。造影では割と均一に造影される場合や、まだらに造影される場合などがありますが、T2強調画像という撮影法では白く映ることが多い腫瘍です。

上の写真は斜視で来られた1歳の男の子のMRI面像です。左の写真はMRI撮像法のガドリニウム造影という撮影法になりますが、矢印で示す部位が視神経、視交叉にあたる部分で、周辺が厚く、内部はややまだらに造影されています。また、右側の画像はT2強調画像という撮影法になります。内部が白くうつっている部位が腫瘍になります。

全視路神経膠腫 Whole Optic Pathway Glioma

両側の視神経が眼窩の中に入ってすぐのところから、視交叉、視索、外側膝状体、視放線までが腫瘍化している所見です。

治療

  • 治療の一歩はまず画像診断からはじまります。
  • 多くの場合、画像から診断をつけることが可能です。手術を検討する場合は、腫瘍が大きく、減圧が必要と判断される場合や閉塞性水頭症を起こしている場合に考慮されます。
  • 治療の主軸は抗がん剤治療となりますが、効果が得られるまでに数か月を要すこともありますので、手術をすることでかえって治療の効果を遅らせることもありえますので慎重な判断が必要となります。
  • NF-1を有する場合には何もしなくても大きくならないこともありますので、経過をみることもあります。

放射線治療

  • 間脳や視神経といった大事な神経構造が含まれますので、基本的に放射線治療は行いません。
  • 抗がん剤治療中でどうしても治療効果まで時間が待てない場合などに考慮されますが、通常では54~60Gy(グレイ;放射線治療の単位)の分割照射という治療選択になります。
  • ただし、照射後早期に腫瘍が一時的に増大することもあるため、その際には症状が悪化する恐れもあり慎重に選択しなければいけません。
  • 私自身、これまで視神経膠腫を30例ほど診ていますが、放射線治療を行った症例は1例のみです。

化学療法

  • この疾患の治療の主軸はあくまで化学療法になります。
  • 現在世界的に用いられている標準的な治療はパッカー先生の報告された治療内容(レジメン)となっています。

パッカーのレジメン

Packer RJ, et al.: Phase III study of craniospinal radiation therapy followed by adjuvant chemotherapy for newly diagnosed average-risk medulloblastoma. J Clin Oncol 24: 4202-4208, 2006
この臨床試験では、播種がない髄芽腫で、手術でほとんど摘出ができている3歳~21歳までの標準リスクの患者さんを対象に、23.4Gyの脳脊髄照射と後頭蓋窩に計55.8Gyを照射したあとに①CCNUシスプラチンビンクリスチンを使う化学療法か②シクロフォスファミドシスプラチンビンクリスチンを使う化学療法のどちらが良いかを調べた臨床試験です。手術後31日以内に脳脊髄照射が開始され,放射線治療中に増感剤として週に1度のビンクリスチンの投与がなされています。抗がん剤治療は照射の6週間後に開始され,計8コースが投与されました。
「結果」そもそも治療期間も短く、小児科の先生になじみのあるシクロフォスファミドがCCNUにとってかわれるかを調べた試験でしたが、両抗がん剤治療(CCNUかシクロフォスファミド)に差は出なかったという結果となっています。