• 脳下垂体とはホルモンを分泌している脳にある線組織です。前葉後葉からできていて、それぞれの線組織から特有のホルモンを出しています。
  • 前葉からは、プロラクチン(乳汁分泌ホルモン)成長ホルモン副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)甲状腺刺激ホルモン卵胞刺激ホルモン黄体形成ホルモン、などが分泌されています。中間部は、インテルメジンを分泌します。後葉からは抗利尿ホルモンオキシトシンが分泌されます。中間部は、臨床上問題にされることはありません。
  • 下垂体腺腫とは、その腺細胞から発生する腫瘍で、ほとんどの場合は良性です。

下垂体腺腫の種類

  • 下垂体前葉の線細胞が腫瘍化して増えてくると、ホルモンを過剰に産生する機能性下垂体腺腫となります。
  • 機能性下垂体腺腫になって過剰に産生されるホルモンは上にあげた最初の3つが主なものです。
  • ホルモンが産生されない非機能性下垂体腺腫もあって、4割ともっとも多いです。

症状

非機能性下垂体腺腫

  • 頭痛やふらつきを契機に偶然に発見される事が多いです。
  • 腫瘍がある程度大きくなれば、下垂体の上にある視神経を圧迫しますので、ものが見えずらくなったりする症状が出て来ます。

機能性下垂体腺腫

成長ホルモンを産生する腫瘍:先端巨大症 (アクロメガリー)
  • 顔つきの変化(鼻や唇が大きくなり顎が突き出してくる
  • 骨格の変化(手足の指が太くなる
  • 生活習慣病の悪化(高血圧糖尿病高コレステロール血症
プロラクチンを産生する腫瘍:プロラクチノーマ
  • 乳汁分泌(妊娠していないのに乳汁が出る
  • 無月経(月経不順月経が無くなってしまう
  • 不妊症(妊娠ができない
  • 男性では無症状(まれに乳汁分泌と女性化乳房)
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を産生する腫瘍:クッシング病
  • 副腎皮質ステロイドホルモンの1つであるコルチゾールというホルモンが過剰に分泌されルコとで症状を呈します
  • 中枢性肥満(体幹部が丸くなる
  • 満月顔貌(顔が丸くなる
  • 皮膚症状(ニキビ体にシミが増える多毛
  • 生活習慣病の悪化(高血圧糖尿病
  • 心臓機能の悪化(心筋梗塞不整脈
甲状腺刺激ホルモンを産生する腫瘍
  • 甲状腺機能亢進(動悸不整脈痩せなど)

診断

  • 眼科を受診いただいて、視力視野の検査が必要になります。
  • 血液検査では、ホルモン検査を行うことで、機能性か非機能性なのかを判別します。また、必要であれば、内分泌の先生にお願いして負荷試験を行います。
  • MRI検査では、ガドリニウム造影検査を行い、腫瘍の進展や大きさを判断します。また、ダイナミック撮影という特殊な撮影法でより小さな腫瘍も詳細に判断できる様になります。

上の写真は物が見えずらいと言った症状で来られた50台の女性のMRI面像です。造影を行うことで腫瘍のかたちと進展具合がよくわかります。

治療

非機能性下垂体腺腫

  • 症状がないものでは多くは経過をみていきます
  • ものが見えにくくなっているといった視力・視野障害に進行がある場合や年齢が若く大きいものや増大が見られ場合には手術が必要となります。

機能性下垂体腺腫

成長ホルモンを産生する腫瘍:先端巨大症 (アクロメガリー)
  • 成長ホルモンの過剰分泌に伴う症状を改善させるのが目的となりますので、多くは手術による摘出が第一選択となります。
  • 手術が困難な場合や手術後に残ってしまった腫瘍、もしくは手術前に腫瘍を小さくしておいて摘出率の向上を図る目的で薬物治療を選択します。
  • 薬物治療にはブロモクリプチンオクトレオチドペグビソマント(ソマバート)を用います。
  • 手術や薬物治療での効果が得られない場合には、定位放射線照射(ガンマナイフなど)を用いますが、放射線治療では効果が出るのに長い年月を必要とすること、また下垂体機能が放射線によって低下することから、治療としての優先順位は低いものと言えます。
プロラクチンを産生する腫瘍:プロラクチノーマ
  • 乳汁分泌ホルモンの過剰分泌に伴う症状を改善させるのが目的となりますが、薬物両方によく反応しますので、多くは薬物治療が第一選択となります。
  • 浸潤性がなく手術で治癒が望めると判断される腫瘍、もしくは妊娠を希望されている女性が腫瘍によって困難と判断される場合、薬物治療での効果が乏しく長期間での投与となる場合などには手術による摘出を選択します。
  • 薬物治療にはカベルゴリン(カバサール)ブロモクリプチテルグリドを用います。
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を産生する腫瘍:クッシング病
  • 副腎皮質刺激ホルモンであるACTHと副腎皮質ホルモンであるコルチゾールを正常化させるのが目的となります。薬物療法での効果が乏しいため、多くは手術による摘出が第一選択となります。
  • 直径10 mm以下の微小腺腫や浸潤性のものもあるため手術は難しいものとなります。
  • 手術が困難な場合や手術後に残ってしまった腫瘍には定位放射線照射を選択します。
  • 薬物治療は効果が乏しいですが、手術後や放射線治療に並行してはメチラポンミトタントリロスタンカベルゴリンシプロヘキサジンブロモクリプチンを用います。

化学療法

  • 治療抵抗性で難治な下垂体腺腫や下垂体がんに対して、2006年以降、テモゾロマイド(テモダール)の有効性が報告されています。
  • 治療抵抗性という判断は病理の所見では難しく、手術・放射線・薬物療法後に短期間で再発を繰り返す腺腫 (aggressive pituitary adenoma)や下垂体がん (pituitary carcinoma)のことをさします。