• 胎児性腫瘍に位置付けられている腫瘍です。
  • 4歳前後の子どもに多くみられる腫瘍ですが、20%程度は15歳以上でも発生する腫瘍です。
  • 大きくなる増殖能が高く、あっというまに増大します。
  • また、播種(脳脊髄液の中に散らばる)しやすい腫瘍であることも特徴です。
  • ほとんどが小脳虫部に発生します。
  • 2016年にアップデートされた分類では遺伝形式上4つに分類がなされ、さらに病理組織でも4つに分類されています。
  • 悪性ですが、治る見込みも十分にある腫瘍です。
  • 治療は手術+放射線治療+抗がん剤治療 の3つが主軸になっています。

症状

  • 頭痛吐き気 といった脳の圧があがることで出る症状、
  • 失調性歩行といって、歩くときにふらつく症状やめまい、倦怠感といった腫瘍ができる場所による症状
  • 播種があれば、背部痛歩行障害物が二重にみえる(複視)などの脳神経症状が認められます。

診断

  • 画像検査:腫瘍のある場所や大きさを検査しますが、脳の圧が高くなっていないかや脳脊髄液の通り道がつまっていないか、など、その後の治療に影響がおよぶとても大事な検査になります。通常、MRI撮像にてガドリニウム造影を行うことで診断します。また、髄芽腫が疑われれば脊髄のMRIも必要となります。
  • 脳脊髄液検査スパイナルタップ(spinal tap)と呼ばれます。腰椎の間に細い穿刺針を刺して、ちょこっと脳脊髄液を採取する手法です。これで脳脊髄液中に腫瘍細胞がいないかどうかを判定します。画像であきらかに播種と判断できる場合には行いませんし、脳の圧が高いと判断される場合には逆に禁忌行為となるため、術中に採取することで代用されます。

上の写真は頭痛と複視で来られた5歳の女の子のMRI面像です。MRI撮像法のガドリニウム造影という撮影法になりますが、右側の画像では桑の実のような充実性の腫瘍の部位とのう胞(水が溜まっている)部位がみとめられ、前にある脳幹(神経の核や意識などの中枢がある脳)を押していることがわかります。また、左の画像は頸椎の同じくガドリニウム造影MRI撮像法ですが、頚髄の前面、後面に沿って白く造営されている部位が腫瘍になります。

分類

遺伝子学的分類

  1. WNT (wingless) ウイングレス
  2. SHH (sonic hedgehog)  ソーニックヘッジホッグ
  3. non-WNT / non-SHH
    • group 3 グループ3
    • group 4 グループ4  

組織学的分類

  1. Classic
  2. Desmoplastic/nodular
  3. with extensive nodularity
  4. Large cell/anaplastic

治療

  • 治療の一歩はまず手術から始まります。
  • 手術の目的は ①脳を圧迫している腫瘍を減圧 ②治療のための診断 ③治療効果のための細胞数を減らしておく、ことに主眼をおきます。
  • 限りなく全摘出がもちろん望ましいのですが、仮に脳幹に浸潤しているからといって脳幹部分を無理に摘出する必要はありません。

放射線治療

  • そもそも、この腫瘍の治療がはじまった歴史は1970年台の全脳全脊髄への放射線治療からはじまっています。
  • 脳脊髄照射は、通常のリスク群では23.4Gy(グレイ;放射線治療の単位)、高リスク群では36Gy低リスク群では行わない、という治療選択になります。
  • 1990年台からは脳脊髄照射に後頭蓋窩の局所照射を加えた54Gyが行われていましたが、現在では治療後におこる認知機能を軽減する目的で腫瘍床(tumor bed)への局所照射が行われています。

化学療法

  • 放射線治療の項でも記載しましたが、そもそも治療を開発していく段階での抗がん剤投与の目的は放射線治療負担の軽減にあります。ですので、放射線治療が基本的に治療の主軸となりますが、その中でどの抗がん剤の組み合わせがベストか、また、もっと放射線治療量を減らすにはどういったやりかたの抗がん剤の投与がよいのか、と考えられてきた治療のできてきた経緯があります。
  • 現在、標準リスク群に用いられている標準的となっている治療はパッカー先生の報告された治療内容(レジメン)となっています。

パッカーのレジメン

Packer RJ, et al.: Phase III study of craniospinal radiation therapy followed by adjuvant chemotherapy for newly diagnosed average-risk medulloblastoma. J Clin Oncol 24: 4202-4208, 2006
この臨床試験では、播種がない髄芽腫で、手術でほとんど摘出ができている3歳~21歳までの標準リスクの患者さんを対象に、23.4Gyの脳脊髄照射と後頭蓋窩に計55.8Gyを照射したあとに①CCNUシスプラチンビンクリスチンを使う化学療法か②シクロフォスファミドシスプラチンビンクリスチンを使う化学療法のどちらが良いかを調べた臨床試験です。手術後31日以内に脳脊髄照射が開始され,放射線治療中に増感剤として週に1度のビンクリスチンの投与がなされています。抗がん剤治療は照射の6週間後に開始され,計8コースが投与されました。
「結果」そもそも治療期間も短く、小児科の先生になじみのあるシクロフォスファミドがCCNUにとってかわれるかを調べた試験でしたが、両抗がん剤治療(CCNUかシクロフォスファミド)に差は出なかったという結果となっています。