- 手術では脳の機能を温存して(症状を悪化させないで)可能な限り摘出をするということが第一になります。
- 組織診断がつけば、テモダールという抗がん剤を併用して(75mg/m2/日)放射線治療(60Gy/30分割で6週間)を行います。
- 放射線治療が終了したら、テモダールを月に5日間継続して服用(150-200mg/m2/日)していきます。
手術
脳の機能を温存することの意味
- 生活の質
- 術後に行われる治療への影響
- 生存期間への影響
2009年に306人の患者さんを対象にした研究が報告されていますが、この報告では術後運動機能に支障が出た患者さんが6%、言語機能に支障が出た患者さんが5%とあり、生存期間はそれぞれ9か月、9.6か月と機能障害が術後に出なかった患者さん(12.8か月)と比べて有意に生存期間が低いものでした。
また、2011年に報告された141人を対象にした研究では、手術による何らかの機能障害がでた患者さん(15.3%)ではその後の放射線や抗がん剤などの治療を有意に受けにくくなっていたとあります。
生活の質への影響もさることながら、術後の治療や余命までにも影響することが分かっていますので、機能を温存する(症状を悪化させない)ということは、とても大事な意味を持つのです。
可能な限り摘出を行うために用いられるモダリティー
- 術中MRI
- 術中超音波
- アミノレブリン酸(5-ALA):腫瘍細胞に選択的に蓄積し、青色の光をあてると腫瘍が赤い蛍光を発しますので赤い部分を摘出します。
この赤く発色している部分が腫瘍になりますので、この部を摘出していきます。
- フルオレセイン:眼底検査で使われるものです。脳の血管は物質を通しにくいが腫瘍の血管は通すという性質を利用したもので、血管から出たフルオレセインに特殊な光をあてると腫瘍部が緑色の蛍光を発します。
これらはいずれも摘出率を上げて生存に寄与してくれるものです。2016年にこれらのいずれがより摘出度を上げるために効果的なのかメタ解析(複数の研究結果から、より質の高い根拠を出すための統計解析手法です)された結果、いずれの手法においても有意な差は認められませんでした。
手術の際に考慮すべきギリアデル
- 英語名ではgliadel wafer(グリアデル ウェファー)といいます。
- Carmustine (カルムスチン BCNU)という以前からあった抗がん剤をタブレット状の基材に封入したものです。
- 腫瘍のDNAをアルキル化してDNA複製を阻害することで効果を発揮するものです。
- 脂溶性で脳内に入りやすいものの、半減期が15分と短く注射剤では十分な効果が期待できないため、局所への高濃度暴露、また注射剤で認められていた抗がん剤特有の血液毒性など全身的な副作用を回避する目的で開発されたものです。
米国では1995年に再発の悪性神経膠腫に対して効果を検証した8802試験によって再発膠芽腫に対して承認されています。また、その後、2003年に初発悪性神経膠腫に対して検証したT-301試験によって初発悪性神経膠腫に対しても承認されました。日本では2013年に使えるようになりました。
- 初回手術で使用した場合、既存のテモダール併用放射線治療の治療と比べて生存期間を延長できることが報告されています。また、2015年にメタ解析が行われましたが、そこでもテモダールとの併用に上乗せ効果が認められています。
- 副作用でおおきなものは傷の治りが遅れたり、留置した周辺の浮腫や感染が15~25%前後です。
一番左図は手術が終わって1日目のCTです。摘出したところに空気が黒く見えています。中に白くすじ状に見えているものがギリアデルになります。左から二つ目のCTは1か月のものですが、依然空気が残っています。ギリアデルの外側に浮腫もありますが、多くはこの程度です。一番右のCTは3か月後のものですが、まだ浮腫も残っていますがこの程度で症状を出すほどではありません。
- 浮腫には留置後早期におこるものと、しばらくたってから起こるものとが報告されていますが、私自身、しばらくたってから起こる浮腫は今のとこ経験がありません。
手術だけでは治らない!
- これだけ色々なお薬やテクニックを使っても残念ながら膠芽腫は手術だけでは治りません。下の図は一見すると、全部摘出できているように見えますが、その周辺、画像では見えないところに細胞があるのです。
脳外科の著名なDandyが1928年に5例の膠芽腫の患者さんの大脳の半分を切除したという記録が残っています。わずか3か月で全例が再発したという結果でした。また、別の報告では造影されるところから2cm離れたところにも6%、それから2cm離れたところにも2%、驚くことに反対の脳にも0.2%腫瘍の細胞が存在していることが報告されています。
放射線治療
- 1970年代からいくつかのランダム化比較試験(客観的に治療効果を評価することを目的とした研究試験の方法です)で量や照射野の検証が行われ、現在の60Gy/30分割で6週間が標準治療となっています。
定位放射線照射は是か非か?
- エビデンスレベルの高いデータとしてRTOG 9305という試験が報告されています。この試験は通常の照射の前に15-24Gyの定位照射を行った試験になりますが、この結果では標準の治療と比べても変わりない結果でした。現時点では推奨できるものではないと考えています。
化学療法
放射線治療中の化学療法
- 2005年に報告された大きな臨床研究の結果、現在はテモダール(75mg/m2/日)を併用して行います。
- アバスチン(血管新生阻害剤)は分子標的治療薬といって膠芽腫で多くみられるVEGFというタンパクをターゲットにしたものですが、初発で併用したものにAVAglio試験とRTOG0825という臨床試験が行われましたが、初回から併用をしても生存期間は延長しないという結論でした。
- 現在、他にも色々なお薬の併用が試されています。ご興味のある方は診察の際に聞いてみてください。
- Eljamel MS et al. 2016
- Gulati S et al. 2011
- McGirt MJ et al. 2009
- Souhami et al. 2004
- Westphal M et al. 2003
- Brem H et al. Lancet 1995